老婆100's <青春>

物語いろいろ、人生道草

-芒-34.懐かしいお父さん

きいるん(基隆)港は、日本統治時、小さな漁村だった。明治33年に築港が計画され、治水事業、橋梁建設、湾口に向けて、平行・垂直に道路も整備され、美しい街並み、商店が立ち並び台湾随一の景観を誇った。(軍事要塞でもあり戦時中空襲の的となり破壊されるこ…

-芒-33.父を頼りに内地へ

キヨと千恵の住込み生活が始まった。仕事は早朝の仕込みから深夜の片付けまで休む暇もなく過酷だった。特に田舎者の千恵は、仕事になかなか馴染めず手際は悪く、店主に四六時中厄介者のように怒鳴られていた。同僚からも「役立たず」などと虐められた。 キヨ…

冬の樹木

昼下がり、所用のついでに買い物に向かった。バスは空いていたので安心した。換気のために窓は開けられていて風が冷たかった。差し込むに西陽が暖かいので我慢出来た。周囲を気にして息を潜めるという事はなく、窓外の景色を見る余裕があった。 スーパーでは…

信長と光秀

大河ドラマの”麒麟が来る”が終盤を迎える。 娘が、大河ファンの老婆のために、堺屋太一の『鬼と人と』を贈ってくれた。 信長と光秀が、同じ場面の中で、それぞれの考え方や受け止め方を独白する面白い内容だ。二人の葛藤や思惑の対比が、今に繋がると頷きな…

-芒-32.妹との再会

その後、妹の千恵は、キヨを頼って台湾に来ることになった。警察官と港へ迎えに行った。船から降りてくる人達を目で追った。遠目でもその風貌に、お互いが”確かだ”と確信した。大人になった妹との再会、懐かしさが込み上げてくる。 「姉さん!」妹は泣きなが…

-芒-31.妹の病気

親戚の警察官は、時々キヨの様子を見に来ていた。ある日、その警察官から、幼少の頃両親の離婚で離ればなれになっていた母親の病死が伝えられた。母方に引き取られた妹の千恵が、マラリアに罹って苦しんでいる事や、キヨに会いたがっていることも知った。 天…

-芒-30.ねえやの娯楽

キヨが渡った頃の台湾では、台湾人の日本語使用推進で各地に講習所を設け徹底されていた。台湾の児童の就学率は71%、日本の児童は90%を超える世界でも高い就学率を実現していたという。(8歳以上14歳未満の6年間の義務教育) キヨは一人で外出することは許され…

老い無き世界の衝撃

今朝、テレビで ”ライフスパン(LIFESPAN)”について議論されていた。著者とのインタビューも紹介され、その内容に釘付けとなった。要は、老化を病気と捉えて、治療を施す治療薬や、医学療法に手が届きつつあるという。老いたマウスの目の治療により立証された…

早朝の混雑

在宅勤務を実施しているが、業務を回すのに週2日はどうしても出勤が必要となる。 今日は多忙なスケジュールのため、早めの時差出勤で6時早々の電車で行こうと考えた。ところがホームは乗り込む人達で埋まり、到着した電車の残り少ない空席を奪い合う状態だっ…

新しい年に期待

多忙な年越しを終えてやっと一息ついた。実家に家族が集まる新年は、老婆にとっては一大イベントなのだ。取り寄せる料理や飲み物が足りなくなるのが心配でつい余分に注文してしまう。食べきれずに賞味期限を逸して勿体ないことになる。毎年のように家族から…

満月に近い赤い月

今朝、5時20分ごろの寒くて真っ暗な西の山際に、明るい月を目撃した。 とっさに太陽では? と勘違いする位大きくて赤い。初めて見る現象に感動した。霜が降りていて寒い中を足を止めてつ見入っていると愛犬が小刻みに震えていた。 明日30日の夕方から31日の明…

平日のレストラン

昨日は長引くコロナ自粛に気が滅入って、外食を楽しみたいと無性に思った。 ウイークデーの夕方の時間なら空いているかもしれないと思いレストランの様子を伺った。案の定お客様は疎らなので、早めの夕食をとることにした。窓際の席を希望したら気持ちよく案…

冬至明け

最も長い冬至の夜が明けた。 これから段々と日脚が伸びて暖かくなって行くのだと思うと気持ちが弾む。この時期は、新年、桃の節句、お彼岸、そして桜の季節を待ち望む事がなぜか楽しい。老婆のくせに、またまだ生き延びて、巡る季節に触れたいと欲張っている…

- 芒 -29.ねえやの恥じらい

キヨは、仕事や来客の対応に大分慣れて手際が良くなっていた。時には深夜になることもあるが鈴で呼ばれたらすぐ動けるよう台所で待機していた。 税関長宅では、演奏会やダンスパーティーなどがよく催されて多くの人が集まった。親しい方々や部下のようだ。こ…

人混み

昼下がり無性にパフェを食べたいと思った。 息子がダイエットしている最中、傍らで食事をするのは気が引ける。なんとなくお腹が満たされない感じで甘いものが食べたいと思った。コロナ禍で孫を誘えないので一人でふらりと駅ビルへと向かった。 改札前を大勢…

昭和館を訪れて

初めて訪れた昭和館の一階ニュースシアターでは、戦争当時の戦況報道を再現していた。スポーツの勝敗に熱狂するかのような語りに、国民が一喜一憂していたのだろうか。6階7階の常設展示室では、幼い頃見覚えのある本やおもちゃ、紙芝居、かまどや給食、食…

太陽を隠す雲

在宅勤務の今日、空は雲一つない快晴だ。 南の窓から入り込む光は暖かい。急ぎの仕事をかたずけて遅めの洗濯をした。どうしても明日必要なスポーツウエアなので乾かしたい。この日差しなのでに乾くと踏んで買い物に出かけた。 バスを待っていると雲が張り出…

- 芒 -28.ねえやの台湾

税関長宅の仕事と生活が始まった。 キヨは”ねえや”と呼ばれ、台所側の一室をあてがわれた。果物や野菜類など食品の置き場を兼ねていた。奥様は、着の身着のままの見苦しいキヨに、ミシンで手早くワンピースとフリルのついたエプロンを仕立てて着替えさせた。…

- 芒 -27.母親の青春

キヨの生活は変わらなかった。 水汲み、洗濯、畑の手伝いの合間に、いとこ達が使わなくなった本で少しずつ字を覚えていった。心のどこかで、無学であることに焦りを感じていた。いつかは父親が迎えに来てくれる、と心待ちにして10年が経とうとしていた。親戚…

夜明け前

今朝5時ごろ、老犬の催促により散歩に出た。 冬のこの時間は真っ暗で、スマホのライトを頼りに川沿いを歩いた。不意に、無灯の自転車が 勢いよく擦れ違がった。驚いた老婆は「無灯は違反でしょ!」と、心の中で怒りながら、老犬の行きたい方へ引っ張られて進…

- 芒 -26.学校へ行けない子供の頃の母親

大好きな祖母が亡くなり、キヨは親戚の家に預けられた。 そこでの生活は厄介者扱いだつた。幼いキヨに、十分な食べ物も与えず、井戸水を汲ませる仕事をさせた。いとこ達に、よく殴られたり、食べ物を見せつけられたり、芋の皮だけを放り投げられたりするなど…

難を逃れる

もうすぐお正月、亡き母は縁起を担ぐ人で、お墓や仏壇に、松や千両、万両がアレンジメントされた正月花を供えていた。仏様が家族を守っていると本気で思い、大切にする母でした。日々、唱える文言は、家族一人ひとりの名前をあげて「事故にあいませんように…

- 芒 -25.母親の幼少期

母親はキヨという。 キヨの子供のころは不幸の連続だったそうだ。キヨの両親は、一歳に満たない妹を帯紐で括り、片方の帯紐を柱に結びつけ土間に落ちないようにして、当時三歳のキヨに子守りを頼んで畑仕事をしていたという。キヨは見様見真似のままごと遊び…

コロナ禍の師走

街はイルミネーションを飾りクリスマスを迎える準備が進められている。 日常が様変わりした年が終わろうとしている。 高齢者の自粛で年末年始の旅行を取りやめる友人もいる。少数での会食、マスクのうえでの会話、祝い事は声を控えめに歓喜する、などうつさ…

- 芒 -24.隣の部屋のおじさん

間貸しをしているおじさんは、障子を隔てた向こうの部屋で寝起きしている。 ラジオを良く聞いている。童謡や歌謡曲が聞こえると、まり子は聞き耳をたてた。 ”月がとっても青いから~遠回りして帰ろ~♪”の歌が大好きで、流れてくるとワクワクして声を出して歌…

コーヒータイム

週末は、家事を一通り終わらせて、昼下がりの街歩きが唯一の楽しみ。 シルバーパスは行きたいところへ運んでくれる。 膝痛緩和のためサポートで装備し、歩行数5,000歩を目標に駅ビルの店舗を覗いて歩く。 疲れたらカフェでひと休み、サイフォンで入れたコー…

老婆の在宅勤務

65歳以上の自粛が要請された。 命を守るには唯一安全な方法だ。 比較的乗客の少ない電車を利用しての勤務を続けていたが、老婆も暫くは週3の在宅勤務を再び実施することにした。 リモートシステムを導入するのではなく、業務のデータをUSBメモリに取り込み、…

- 芒 -23.ジャンパー

まり子が同級生を庇って男の子と喧嘩したことは、たちまち部落中に広がったようだ。 日本人でありながら朝鮮の子を助けたという事で、ヒーロー視されたのだと思う。次第に学校へ一緒に行く人数が増え、長距離の通学路では、まり子を中心にお喋りに花が咲いた…

ベコニヤと母

庭には、百日紅や梅の木、クチナシの花などが植わっていた。 生前母は、庭の手入れと空いたスペースにベコニヤも育てていた。 年老いて手入が出来なくなり庭先は雑草で覆われることが多かった。 放っておけないので仕事の合間に草取りをするようにしていたが…

- 芒 -22.シラミとDDT散布

学校では、DDTを散布するためクラス別に生徒を運動場に集めた。髪に白い粉をかけてシラミを退治するためだ。その時は、頭髪が真っ白になる事を 皆で面白がった。シラミは人に寄生して 発疹チフス等の伝染病を媒体する恐れがあるという。シラミが皮膚を刺すと…