遠足の日程と、行く場所が伝えられた。子供たちにはワクワクする行事だ。歓声が上がる。まり子も勿論こころが弾む。しかし一方では行かせてもらえるか不安が募る。
案の定、母親から無理だという理由を聞かされた。
失望が隠し切れないまり子。行きたかった。涙がこみ上げた。
「次は行かせてあげるからね」と、申し訳なさそうにしている母。きっと辛かったに違いない。
それでも遠足当日の朝まで、もしかして、と微かな望みを抱いていたが儚く消えた。
数日後、授業で、遠足に行って、見たこと、感じたこと等をグループで話し合い、作文を書くように指導された。まり子は同級生の興奮ぎみな遠足の様子を羨ましく聞いていた。
まり子の作文は概ね次のような内容だった。
母親に言われた参加出来ない理由、お金が無いから集金(参加費)が払えない、弁当が作ってあげられない事。破れが目立つ靴しか無い、リュックが無い、水筒が無い、洋服が買えない等、正直に書いた。(戦後の復興時は、正月や特別の日に洋服を新調する世相だった)
遠足に行きたかったけど親が可哀そうだから我慢した子供心を書いた。
その日は家で毛糸を解く手伝いをしたこと。次は行かせて貰える事など、素直に書き綴ったと思われる。
参観日前日、50人以上いる生徒の中から選別された作文が、教室の後ろに掲示された。まり子の作文も含まれていた。
授業参観に来た父兄は、わが子のものを探しながら展示されているものに目を通していた。
後日、先生から作文を返してもらった。赤の五重丸が付いていた。嬉しくて母親に見せた。「恥ずかしい事を書かないでよ」と言いながら母は泣いていた。
参観の日、まり子の作文を読んで涙した父兄がいたということを、後で耳にした。
続く・・・