老婆100's <青春>

物語いろいろ、人生道草

- 芒 -27.母親の青春

キヨの生活は変わらなかった。

水汲み、洗濯、畑の手伝いの合間に、いとこ達が使わなくなった本で少しずつ字を覚えていった。心のどこかで、無学であることに焦りを感じていた。いつかは父親が迎えに来てくれる、と心待ちにして10年が経とうとしていた。親戚の中に警察官がいて時々顔を見せていた。常々、キヨの状況を気にかけていた。16歳になったキヨに働き先を世話してくれることになり、その警察官に連れられて台湾に渡った。

台湾は、日清戦争後(1895年4月)、清国が日本に割譲した。植民地統治(1859年~1945年)を開始した日本は、土地改革、ライフライン、アヘン中毒撲滅、学校教育の普及、産業の育成で台湾の近代化を推進していた。

キヨは、警察官の口利きで、税関長宅の女中として働くことになった。住まいは洋館で、ご主人は日本人、奥様はアメリカ人と日本人のハーフで、日本語の美しい言葉を流暢に話す夫人だった。応接間で、警察官に挨拶を促されたキヨは、田舎者丸出しで座り込み、頭を床につけた。緊張でガタガタ震えて言葉が出なかった。奥様が「椅子におかけなさい」と、優しく肩に手を添えてくれた。こうしてキヨは、右も左もわからない台湾での生活が始まり、仕えるご夫妻や訪問客との出会により、身心供に成長し、青春を迎えることになる。

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