老婆100's <青春>

物語いろいろ、人生道草

- 芒 -28.ねえやの台湾

税関長宅の仕事と生活が始まった。

キヨは”ねえや”と呼ばれ、台所側の一室をあてがわれた。果物や野菜類など食品の置き場を兼ねていた。奥様は、着の身着のままの見苦しいキヨに、ミシンで手早くワンピースとフリルのついたエプロンを仕立てて着替えさせた。屋内の仕事がキヨの役割だった。不慣れな環境と、年端がいかない事もあり失敗の連続だった。奥様は、怒ることなく根気よく指導してくれたので救われた。キヨには、一生懸命頑張ろうという直向きな気持ちが芽生えていった。大量のアイロンかけが辛かった。掃除は塵ひとつ見逃してはならない。糠袋で廊下をピカピカにした。窓ガラスも透き通るように磨いた。人との応対の仕方や、言葉使いを厳しく躾けられた。これまでに聞いたことも無い「かしこまりました」「お召し上がりくださいませ」「いらっしゃいませ」「お待ちくださいませ」などの言葉を教えられ、キヨが使っていた方言や雑な言葉は徹底して直された。来客が多く、ひざまずいてお盆で名刺を頂き、許可を得てから案内した。キヨの部屋の壁には、飲み物、お菓子類の名前が書かれたカードがぶら下がっていて、鈴で合図があった飲み物とそれに沿えるお菓子を用意して来客に丁寧に差し出した。
食事の支度を手伝い、配膳や後かたずけを行った。メインのおかずは奥様自ら料理した。
食堂では家族で、キヨは台所のテーブルで家族の様子を伺いながら食事した。
キヨは、これまで人目を気にしながら少ししか食べていない事を主張しながらこそこそ食べていた習慣から、税関長宅でも、おかずを数品減らしたり少な目に装って食べた。時々、奥様が傍に来て、キヨの食べ物を確認した。「ねえや!食べるものはみんなと同じように食べて下さい。」と、叱った。人の温かさに触れることが希薄だった為のキヨの闘争的で尖った気性が、次第に和らいでいた。こけていた頬にもふっくらと肉付きが良くなっていった。
続く・・・

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