親戚の警察官は、時々キヨの様子を見に来ていた。ある日、その警察官から、幼少の頃両親の離婚で離ればなれになっていた母親の病死が伝えられた。母方に引き取られた妹の千恵が、マラリアに罹って苦しんでいる事や、キヨに会いたがっていることも知った。
天涯孤独のキヨは、肉親の消息に胸が締め付けられた。何時かは必ず会えるという思いを胸に抱いて生きてきた。今すぐにでも妹に会いたい、助けてやりたいと焦った。
事情を知った奥様は、なかなか手に入らないという高価な薬を手配して、親戚の警察官に託してくれた。薬の代金は、僅かなお給金から少しづつ差っ引いてもらえることになった。
おかげで、妹は命を取り留め、元気になったとの知らせを受けた。
今では母親も亡く、何もしなかったら、妹は手当ても受けられず助からなかったはずだ。
昔、大好きだったお婆ちゃんが、苦しんでいるのに医者も呼んでもらえず亡くなったことを思い浮かべて妹と重ねた。
税関長宅に奉公していたことで、奥様の好意と機転をきかせて頂いたことが幸運だったと胸を撫でおろした。
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