老婆100's <青春>

物語いろいろ、人生道草

-芒-33.父を頼りに内地へ

キヨと千恵の住込み生活が始まった。仕事は早朝の仕込みから深夜の片付けまで休む暇もなく過酷だった。特に田舎者の千恵は、仕事になかなか馴染めず手際は悪く、店主に四六時中厄介者のように怒鳴られていた。同僚からも「役立たず」などと虐められた。

キヨはそんな千恵を不憫に思い、陰ながら手助けして庇った。千恵は、従業員が寝静まっている部屋で、布団を被って声を殺して泣ている事が多かった。

食べられる事、寝る場所があるだけで何とか生きていける。愚痴をこぼしたら追い出されるとふたりは耐え忍んだ。

しかしキヨは千恵を馬鹿にする相手に我慢が出来なくなり、そのうち雑言を吐いて対抗するようになった。堪忍袋の緒が切れたのだ。税関長宅で身に着けた上品な言葉遣いが次第に崩れていった。店主は、機敏に仕事の出来るキヨには一目置いていた。キヨに気を使い、多少は千恵への風当たりを緩めたが相変わらずで、ひと月が経った。

そんなある日、何かと気遣ってくれる親戚の警察官から父親の消息を知らされた。

二人にとっては幼い頃離ればなれになった父であった。内地の製鉄所で働いているという。台湾に娘二人がいることを知り、どうしても手元に呼び寄せたいと強く願望しているそうだ。

キヨは父親が大好きだった。幼い頃、離婚で母方に引き取られたが、父を慕い、ひとり夜道を歩いて父と祖母のもとへ戻ったのだ。そのうち酒浸りだった父は、何処かへ行ったきり帰って来なかった。

警察官の計らいで、本土の父の元へ帰る準備を進めることにした。税関長宅で働いて貯めた,僅かなお金を旅費に充て、キヨと千恵は船に乗って日本へと向かった。

続く・・・

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